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「バーサよりよろしく」劇評 「演劇人006」より抜粋
──「バーサよりよろしく」は、娼婦バーサのけばけばしく乱雑な部屋での出来事である。しかし、演出の外輪能隆は戯曲の指定をすべて無視し、最低限必要かとも思われるベットさえ使わなかった。白い布を敷きつめたリングのような舞台をつくり、病気で半ば狂気に憑かれているバーサをそこに横たえたのである。
娼婦の女あるじゴールディは、稼がなくなったバーサを持て余し、はじめは優しげに病院に行くことを勧めるが、バーサの激しい反撥につれてしだいに威圧的になり、二人の衝突は暴力性を帯びてくる。バーサは妄想のなかの愛人チャーリーに宛てて、出されることのない手紙を書こうとするが、その口述筆記を頼まれたリーナはまったく無関心で、途中で書くことをやめてしまう。
演出家は劇の始まりから赤い血のような滴を舞台に落とした。最初にバーサの下腹部を濡らした赤い染みは、劇が進むにつれて舞台全体にひろがっていくが、同じように白い薄手の衣装の三人の女のなかでいちばん赤く染まるのはバーサ、つぎがゴールディで、リーナはほんの少ししか濡れない。この処置は閉ざされた世界に住む三人の位置関係、そこから生まれる不協和音を鮮やかに見せた。
戯曲には、バーサの部屋をチラッと覗いて消えるだけの若い女が二度登場する。演出は外の世界を象徴するこの人物を背広を着た若い男に変え、二度だけ舞台に入ってくるほかは、舞台の周囲を歩き回る存在にした。この男は女たちの行動とはまったく無関係に煙草を吸ったり、カメラを取り出したりするし、音響効果としての蓄音機をかけたり停めたりもする。そのことで舞台の内側の世界を異化する効果をあげていた。
──「バーサよりよろしく」は、テネシー・ウィリアムズの繊細な、はかなく消えてしまう情感を描いているわけだけど、外輪氏はその消えていくものから強烈なエネルギーを表現したわけですね。そういうところが独特な演出なのであって、作家が演出したらああいう意外性は出せない。
──外輪能隆氏の「バーサよりよろしく」は、テネシーウィリアムズの魅力的な細かいト書きがあるにもかかわらず、シンプルで独自な空間を造形していた。舞台一面に敷かれた白布が芝居の進行とともに上から滴る水で赤く染まっていく。俳優の白い衣装も徐々に赤く濡れ肌まで透けていく。まったく予想外のものでしたが、戯曲の持つ雰囲気にぴったりだと感じました。
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