『溝への忘れ物』
夫が戦争で失った、唇。あるはずのものがなくなってしまったことを受け入れれることができない妻。妻はある食料品店での買い物を再開し、夫のために編んだセーターを埋めてしまう。あの"溝"に、あなたが忘れてきたものは?失った「感触」へのこだわりが深く、悲しくひろがってゆく。
『豆姉妹』
第26回すばる文学賞受賞、栗田有起『ハミザベス』からの一編。SM女王に転身した姉とつつましく暮らす高校生のわたしのもとに、義理の弟である良太が転がり込んだ。弟といっても同じ学年なのだが。なぜかおねえことばで話す良太を加え、突如として"三姉妹"になったわたしたちの奇妙な共同生活が始まる。
『私の名前を呼んで』
――地下鉄の中で、私は男たちをみる。これは秘密のオーディション
――いつものままでいらっしゃい。
男を選び、仕掛ける少女と、それに乗る気のない男とのちぐはぐな会話が、むなしく切なく続く『私の名前を呼んで』。不可思議で、傲慢な少女のふるまいが孤独で哀しみに満たされた現実(いま)に突き刺さる作品。
『幽霊の家』
大学の同級生、岩倉君との出会いと別れ、そして再会。ふわふわとした浮遊感と乾いた空気の日常に地道で普遍的な人生の営みや美しさを描く、よしもとばなな作『幽霊の家』。物悲しさの中に希望をたたえた"ばななワールド"が真冬の空に広がる。
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